Functional Organic Materials Laboratory 名古屋大学大学院理学研究科
物質理学専攻化学系 機能有機化学研究室
トランスフォーマティブ生命分子研究所 (ITbM)

Research

分子において、σ電子が原子どうしをつなぎ、分子骨格を形づくる根幹的役割を担うのに対し、π電子は、発色、発光、電子物性、磁性など、分子の電子的性質を決定づけています。自然界にも、π電子が鍵となる機能分子が多く存在し、生物発光、光合成、色の認識など、多様な機能を生み出しています。我々が魅せられているのは、このπ電子です。π電子をいかに自在にあやつり、分子機能を追求するか。その鍵となるのは、π軌道の広がりや軌道準位、凝集状態での分子間の相互作用など、「π電子のあり方」を突きつめることにあります。我々はこの観点から、特に、斬新な分子デザインのコンセプトの提案に重きを置き、未来の物質社会を拓く先進機能有機分子の創製に挑戦しています。量子化学計算に立脚した緻密な分子デザイン、先端合成手法を駆使した新骨格合成、最新鋭機器を用いた物性評価をもとに、数々の優れた機能分子を創り出しています。最近では、有機エレクトロニクスへの応用だけではなく、蛍光分子を生体イメージングへと展開し、これまでに見ることができなかった生物学現象の解明にも挑戦しています。現在、以下の4つをメインテーマに幅広い視点から全力で研究を展開しています。

  1. M. Hirai, N. Tanaka, M. Sakai, S. Yamaguchi, Chem. Rev., 2019, 119, 8291-8331.
  2. S. Yamaguchi, A. Fukazawa, M. Taki, J. Synth. Org. Chem., Jpn., 2017, 75, 1179-1187.

新しいパイ骨格を創る

分子性の光・電子機能を生む出す根源は、π骨格にあります。なかでも我々は、チオフェンに代表される5員環ヘテロ環や、芳香族性をもつトロピリウムなどの7員環骨格を駆使した新骨格合成に取り組んできました。また、縮環ペンタレン骨格などの顕著な反芳香族性をもつ分子骨格や、8員環、9員環骨格をもとにした柔軟性をもつ分子骨格、励起状態で大きく構造変化し、特異な発光特性を示す分子など、特徴ある多彩な分子骨格を生み出し続けています。この化学を可能にするのが、分子内アルキン環化反応やクロスカップリング、C-H変換反応などの最先端手法を基盤とした合成化学です。そして、この構造有機化学的な観点からのcuriosity-drivenな基礎研究は、溶解性に優れた有機半導体材料や近赤外発光材料など、特異な機能性材料を生み出し、有機エレクトロニクス分野はもとより、後述の蛍光イメージング技術の進展を通し、ライフサイエンス分野の発展に貢献します。

  1. K. Asai, A. Fukazawa, S. Yamaguchi, Angew. Chem. Int. Ed., 2017, 56, 6848-6852.
  2. H. Oshima, A. Fukazawa, S. Yamaguchi, Angew. Chem. Int. Ed., 2017, 56, 3270-3274.
  3. A. Fukazawa, Y. Toda, M. Hayakawa, A. Sekioka, H. Ishii, T. Okamoto, J. Takeya, Y. Hijikata, S. Yamaguchi, Chem. Eur. J., 2018, 13, 1616-1324.
  4. N. Suzuki, K. Suda, D. Yokogawa, H. Kitoh-Nishioka, S. Irle, A. Ando, L. M. G. Abegão, K. Kamada, A. Fukazawa, S. Yamaguchi, Chem. Sci., 2018, 9, 2666-2673.

典型元素を活かす

我々のコダワリは、「名刺代わりの分子」ともよべる特徴ある独自の分子骨格を生む出すことにあります。その一つのアプローチが、典型元素のπ骨格への導入です。炭素を中心に構成されるπ骨格に、電子数、配位数・価数、構造特性の観点で多様な典型元素を組み込むことで、従来の有機分子では実現困難な物性や機能をもつ分子群を創り出すことができます。なかでも注目するのが、ホウ素、ケイ素、リン、硫黄といった典型元素です。これらの元素の本質を追求し、新しい使い方を提案することで、「この元素だからこそできる」といえる優れた機能性分子の創出に挑んでいます。多環式のπ骨格にホウ素を組み込んだ分子群は代表例で、数々の新骨格を生み出し、OLED発光材料や液晶材料、センシング材料など、その機能創出に取り組んでいます。最近では、ホウ素を導入することにより極度に安定化された両極性電荷輸送能をもつ有機πラジカルの合成に成功しました。

  1. Z. Zhou, A. Wakamiya, T. Kushida, and S. Yamaguchi, J. Am. Chem. Soc., 2012, 134, 4529-4532.
  2. T. Kushida, S. Shirai, N. Ando, T. Okamoto, H. Ishii, H. Matsui, M. Yamagishi, T. Uemura, J. Tsurumi, S. Watanabe, J. Takeya, S. Yamaguchi, J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 14336-14339.
  3. N. Ando, H. Soutome, S.Yamaguchi, Chem. Sci., 2019, 10, 7816-7821.

分子を並べ、機能につなげる

π電子系の化学の醍醐味は、π分子が集合体を形成すると、一分子とは大きく異なる物性を発現する点にあります。言いかえると、π分子間の相互作用をもとに集合体構造を精緻に制御することこそが、π電子系材料の固体物性、機能の追求につながります。我々は、πスタッキング、CH---π相互作用、J会合体、2次元シート、ナノ粒子などをキーワードに、これらの制御に取り組んでいます。特に注目するのが、π分子が一次元に集合した超分子ポリマーの精密超分子重合です。準安定状態を利用して自発的な会合を抑制し、開始剤の添加により分子を一次元状に並べる手法で、集合体の長さを制御できます。これを実現する汎用分子骨格としてアミノ酸ジアミドに着目し、この骨格をもとに多様なπ分子集合体の創製に取り組んでいます。そして、先端量子化学計算や高度な分光法を駆使し、それらの物性と機能を追求しています。

  1. S. Ogi, K. Matsumoto, S. Yamaguchi, Angew. Chem. Int. Ed., 2018, 57, 2339-2343.
  2. S. Ogi, N. Fukaya, Arifin, B. B. Skjelstad, Y. Hijikata, S. Yamaguchi, Chem. Eur. J., 2019, 25, 7303-7307.

蛍光イメージングを革新する

舞台のスポットライトは観る人を魅了します。同様に、暗闇に光を照らして分子を輝かせ、細胞の構造や機能の観察を可能にする技術が、我々が魅了される蛍光イメージングです。有機蛍光色素は、この技術の強力な分子ツールであり、生命科学分野の飛躍的な発展に貢献してきました。しかし、これまでに解明されてきた生命現象は、依然ほんの一握りです。多くの謎に包まれた生命現象を解き明かすためには、既存技術とは一線を画す新しい蛍光色素の開発が必須です。これに対し我々は、典型元素の特性を活かした独自の分子デザインによる蛍光色素骨格の創出に挑んでいます。生体深部の1細胞観察、細胞オルガネラの超微細構造の動態、細胞内脂質の代謝解析などを可能にする分子ツールへと造り込むことが課題です。例えば、最近開発したリンを含む超耐光性蛍光色素は、超解像STEDイメージングの繰り返し撮像を可能にし、ミトコンドリアの内膜構造であるクリステの観察を、生きた細胞を用いて実現しました。我々は、化学的立場から蛍光イメージング技術に革新をもたらし、ひいては病理診断や創薬研究ツールとしての利用を通して、人類の健康推進に貢献したいと考えています。

  1. C. Wang, M. Taki, Y. Sato, A. Fukazawa, T. Higashiyama, S. Yamaguchi S, J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 10374-10381.
  2. C. Wang, M. Taki, Y. Sato, Y. Tamura, H. Yaginuma, Y. Okada, S. Yamaguchi, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2019, 116, 15817-15822.
  3. M. Grzybowski, M. Taki, K. Senda, Y. Sato, T. Ariyoshi, Y. Okada, R. Kawakami, T. Imamura, S. Yamaguchi, Angew. Chem. Int. Ed. 2018, 57, 10137-10141.