動的機能発現 –– 最近の論文から
π共役系システムは、有機物の光電子物性を司る最小ユニットとして、材料、デバイス、蛍光プローブの根幹を担っている。それぞれの目的に応じて多種多様な骨格のπ共役分子が報告されているが、その分子設計の指針は大きく以下の3つに集約できる。すなわち、π共役系の拡張、配列制御、次元性の向上である。これらの、π共役系を「拡げる」「並べる」「曲げる」という指針に続く次なる概念の候補として、我々はπ共役系を「動かす」という視点に着目しており、柔軟な骨格を導入して分子の動きを制御することで、物性を変換できる機能システムの開発を目指している。
◆ 単一発光材料による環境応答性 RGB 発光の実現
A π-Conjugated System with Flexibility and Rigidity that Shows Environment-Dependent RGB Luminescence
C. Yuan, S. Saito, C. Camacho, S. Irle, I. Hisaki, S. Yamaguchi, J. Am. Chem. Soc., 135, 8842-8845 (2013).
[DOI: 10.1021/ja404198h]
本論文は、米国化学会 “Chemical & Engineering News” にハイライトされた。
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”A Molecule of Many Colors” – C&EN
Related Papers:
1. C. Yuan, S. Saito, C. Camacho, T. Kowaiczyk, S. Irle, S. Yamaguchi, Chem. Eur. J, in press.
[DOI: 10.1002/chem.201303955]
◆ 「すり潰す力」と「圧し縮める力」を見分けられる発光材料の開発
Distinct Responses to Mechanical Grinding and Hydrostatic Pressure in Luminescent Chromism of Tetrathiazolylthiophene
K. Nagura, S. Saito, H. Yusa, H. Yamawaki, H. Fujihisa, H. Sato, Y. Shimoikeda, S. Yamaguchi, J. Am. Chem. Soc., 135, 10322-10325 (2013).
[DOI: 10.1021/ja4055228]
◆ 「芳香族性の変換」による機能発現を目指した鞍型π共役分子の開発
Highly Flexible pi-Extended Cyclooctatetraenes: Cyclic Thiazole Tetramers with Head-to-Tail Connection
K. Mouri, S. Saito, S. Yamaguchi, Angew. Chem. Int. Ed., 51, 5971-5975 (2012).
固体状態で優れた性質を示すπ共役分子は、光電子材料として広く用いられている。しかし、その多くはsp2炭素からなる剛直な骨格をもつことから、無機材料に似て、構造柔軟性に由来する物性の変換は難しく、静的な物性の発現に留まっている。これに対し、柔軟なπ共役骨格の動きは「可逆な動的変化」とみなすことができ、複数の状態を可逆に変換するための仕掛けとして興味深い。ただし、分子の形が変わったからといって材料の性質が必ずしも大きく変わるわけではない。性質が構造に連動して変化する系をつくるには何らかの工夫が必要である。
本研究では、その工夫として「芳香族性の変換」に着目し、材料特性の可逆変換機能を目指している。炭素の8角形でできたπ共役骨格(シクロオクタテトラエン)は柔軟に形を変えることができ、特に平面構造になると反芳香族性という特有の電子状態を発現し、分子の性質が大きく変化する。我々は、このπ共役8員環を中心に据え、形の柔軟性を損なわないようにπ共役系が全方向に拡張された分子骨格を開発した。この分子骨格は、溶液中において1秒間に数千万回の超高速反転を繰り返す、極めて柔軟な鞍型構造をしている。さらに、非平面の形であるにもかかわらず、固体状態では一列に積み重なって集合することがわかった。今後、この分子骨格の柔軟性を凝集状態で引き出すことにより、材料特性が変換できる高度な機能システムの創出を目指す。
Related Papers:
1. K. Mouri, S. Saito, I. Hisaki, and S. Yamaguchi, Chem. Sci., 4, 4465-4469 (2013).
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