YAMAGUCHI GROUP
名古屋大学大学院理学研究科  物質理学専攻化学系  機能有機化学研究室
 
Research Highlights

Group 15 Phosphorus –– 最近の論文から

ホスホールオキシドの蛍光プローブへの応用

Environment-Sensitive Fluorescent Probe: A Benzophosphole Oxide with an Electron-Donating Substituent


E. Yamaguchi, C. Wang, A. Fukazawa, M. Taki, Y. Sato, T. Sasaki, M. Ueda, N. Sasaki, T. Higashiyama, S. Yamaguchi, Angew. Chem. Int. Ed., 54, 4539-4543 (2015).

[DOI: 10.1002/anie.201500229]

Selected as an Inside Cover in Issue 15, 7 April 2015



 ホスホールは,同族類縁体のピロールとは全く異なる電子特性や構造特性を備えている.特に,リン上を酸化したホスホールオキシドは,極めて高い電子受容性と高い化学的安定性をあわせもつことから,電子輸送材料や発光材料など有機エレクトロニクス材料の基本骨格として近年注目を集めている一方で,生物学研究に応用した例は皆無である.このような背景のもと我々は,ホスホールオキシドの特徴を発光材料の基本骨格として用いることを考え,電子受容性のベンゾホスホールオキシド骨格に電子供与性のトリフェニルアミンを置換した化合物を設計,合成した.この化合物は,分子内電荷移動型 (ICT) 遷移に起因して,ストークスシフトの大きな蛍光発光を示し,その発光色は周囲の溶媒の極性に応じて青緑色から赤橙色まで変化する.また,従来に報告されている ICT 型の蛍光プローブとは異なり,蛍光顕微鏡でよく用いられる405 nm の LED レーザーにより効率よく励起することができる.さらに,溶媒の極性にかかわらず強い蛍光を示すこと,さらに細胞毒性が低く,比較的高い光安定性を有することから,周囲の環境を感知する蛍光プローブとしての潜在性が示唆された.実際にこの色素を用いた蛍光イメージングにより,脂肪細胞の分化に伴う極性環境の変化を可視化することに成功した.

  1. Related Papers:

  2. 1.  M. Taki, H. Ogasawara, H. Osaki, A. Fukazawa, Y. Sato, K. Ogasawara, T. Higashiyama,

  3.      S. Yamaguchi, Chem. Commun., 51, 11880-11883 (2015).

  4.      [DOI: 10.1039/C5CC03547C]


典型元素化学から分子エレクトロニクスへ

Phosphine Sulfides as an Anchor Unit for Single Molecule Junction

A. Fukazawa, M. Kiguchi, S. Tange, Y. Ichihashi, Q. Zhao, T. Takahashi, T. Konishi, K. Murakoshi, Y. Tsuji, A. Staykov, K. Yoshizawa, S. Yamaguchi, Chem. Lett., 40, 174-176 (2011).

[DOI: 10.1246/cl.2011.174]

(Selected as Editor’s Choice)


 分子エレクトロニクスにおいて,電極と分子を接合するアンカー部位は,単一分子の電気伝導特性を決定づける重要な因子として認識されつつある.本論文では,ホスフィンスルフィド (P=S) のアンカーとしての可能性に着目し,モデル分子としてジベンゾホスホールスルフィドを両末端にもつフェニレンおよびビフェニレンを合成した.
STMを用いた単一分子の電気伝導度計測により,これらが代表的なアンカーであるチオールと同等の伝導性をもつことを示した (木口 学 准教授 (北大, 現東工大)との共同研究).さらに,電極原子を考慮に入れた理論計算により,これらの化合物がフェルミ準位近傍にLUMO準位をもち,共鳴トンネル機構による電気伝導を示すことが示唆された (吉澤一成教授 (九大) との共同研究).ホスフィンスルフィドの高い電子受容性を反映した結果であるといえる.



分子内連続環化反応によるホスホリル架橋スチルベンの合成

Bis-Phosphoryl-Bridged Stilbenes Synthesized by an Intramolecular Cascade Cyclization

A. Fukazawa, M. Hara, T. Okamoto. E.-C. Son, C. Xu, K. Tamao, S. Yamaguchi, Org. Lett., 10, 913-916 (2008). [DOI: 10.1021/ol7030608]




 リンの最も重要な特徴の一つは非共有電子対の存在であり,これを足がかりとする多様な化学修飾,ひいては電子構造修飾が可能である.我々は特に,得られる化合物の電子構造の面白さと安定性の両面からホスフィンオキシド (P=O) に注目し,スチルベン骨格を2つのホスホリル基で架橋したビス(ホスホリル)架橋スチルベンの合成と物性を報告している.ビス(ホスファニルフェニル)アセチレン類の分子内ドミノ環化反応を見いだし,標的化合物を効率よく得ることに成功した.また,得られた化合物群がきわめて強い水色発光を示すことに加え,強い電子求引基であるホスホリル基の導入により高い電子受容性をもつことを示した.


  1. Related Papers:

  2. 1. A. Fukazawa, Y. Ichihashi, Y. Kosaka, S. Yamaguchi, Chem. Asian J., 4, 1729-1740 (2009).

  3.    [DOI: 10.1002/asia.200900303]

  4. 2. A. Fukazawa, T. Murai, L. Li, Y. Chen, S. Yamaguchi, C. R. Chimie, 13, 1082-1090 (2010).

  5.    [DOI: 10.1016/j.crci.2010.04.021]



双性イオン構造を架橋部位にもつラダー型オリゴパラフェニレンビニレンの開発

Phosphonium and Borate-Bridged Zwitterionic Ladder Stilbene and Its Extended Analogues

  1. A.Fukazawa, H. Yamada, S. Yamaguchi, Angew. Chem. Int. Ed., 47, 5582-5585 (2008).

[DOI: 10.1002/anie.200801834]

(Highlighted in SYNFACTS)




 ラダー状に骨格を平面に固定したオリゴ(p-フェニレンビニレン)骨格を修飾して,最も特異な電子構造をもつπ電子系をいかにつくるか.本論文では,この問いに対する答えとして,ホスホニウムおよびボラートで架橋したラダー型オリゴ(p-フェニレンビニレン)類の合成と物性を報告している.ホスファニル基とボリル基をオルト位にもつジフェニルアセチレン類からの分子内求核的二重環化反応により,標的化合物を効率よく得ることに成功した.また,これらが双性イオン構造に起因して,高度に分極した電子構造をもち,長波長領域での吸収・蛍光などの特異な光物性を示すことを明らかにした.これらは新たな二光子吸収材料としての応用などが期待できる.


  1. Related Papers:

  2. 1. A. Fukazawa, H. Yamada, Y. Sasaki, S. Akiyama, S. Yamaguchi, Chem. Asian J., 5, 466-469 (2010).

  3.     [DOI: 10.1002/asia.200900517]

  4. 2. A. Fukazawa, E. Yamaguchi, E. Ito, H. Yamada, J. Wang, S. Irle, S. Yamaguchi, Organometallics,

  5.      30, 3870-3879 (2011). [DOI: 10.1021/om200453w]