Research Highlights

動的機能発現 – 最近の論文から

π共役系システムは,有機物の光電子物性を司る最小ユニットとして,材料,デバイス,蛍光プローブの根幹を担っている.それぞれの目的に応じて多種多様な骨格のπ共役分子が報告されているが,その分子設計の指針は大きく以下の3つに集約できる.すなわち,π共役系の拡張,配列制御,次元性の向上である.これらの,π共役系を「拡げる」「並べる」「曲げる」という指針に続く次なる概念の候補として,我々はπ共役系を「動かす」という視点に着目しており,柔軟な骨格を導入して分子の動きを制御することで,物性を変換できる機能システムの開発を目指している.

 

A π-Conjugated System with Flexibility and Rigidity that Shows Environment-Dependent RGB Luminescence
C. Yuan, S. Saito, C. Camacho, S. Irle, I. Hisaki, S. Yamaguchi, J. Am. Chem. Soc., 135, 8842-8845 (2013).
[DOI: 10.1021/ja404198h]

発光性の有機分子は,有機ELやバイオイメージングなどの分野で幅広く用いられ,ますますその重要性は増している.本研究では,新しい分子設計の指針として「剛直性と柔軟性のハイブリッド」というコンセプトを提唱し,堅い骨格と柔らかい骨格のそれぞれの長所を活かした新しい発光性材料を開発した.この材料は,一種類の分子からなるにもかかわらず,環境に応じて分子が形を変えることで光の3原色であるRGB(Red、Green、Blue)の3色の発光を示すことができる.ポリマー薄膜に分散させた状態では青色に光り,溶媒に溶かした状態では緑色に光り,分子が集まった結晶状態では赤色に光る.これら3色の光は,それぞれ,分子がV字型に曲がった形,平面型に伸びた形,V字型で積み上がった形から発せられる.エネルギーの大きく異なるRGBの3色の発光を,一つの有機分子で励起波長を変えずに実現したのはこれが初めてとなる.本論文は,米国化学会 “Chemical & Engineering News” にハイライトされた.

Related Papers:

  1. C. Yuan, S. Saito, C. Camacho, T. Kowaiczyk, S. Irle, S. Yamaguchi, Chem. Eur. J., 20, 2193–2200 (2014).
    [DOI: 10.1002/chem.201303955]

 

Distinct Responses to Mechanical Grinding and Hydrostatic Pressure in Luminescent Chromism of Tetrathiazolylthiophene
K. Nagura, S. Saito, H. Yusa, H. Yamawaki, H. Fujihisa, H. Sato, Y. Shimoikeda, S. Yamaguchi, J. Am. Chem. Soc., 135, 10322-10325 (2013).
[DOI: 10.1021/ja4055228]

物理的な力(引っ張り、すり潰し、加圧など)に応答して物質の色彩や発光色が変わる現象をメカノクロミズムまたはピエゾクロミズムと呼ぶ.近年,発光性メカノクロミズムの研究が世界中で活発になっており,センサーやメモリ材料として展開が期待されている.ここで,環境応答性の発光材料としての応用を考える上では,材料への力のかかり方(方向性)によって環境の変化が異なることにも配慮する必要がある.しかしながら,応力の種類を見分けることのできる発光材料は報告されていなかった.今回我々は,「すり潰す力」を加えると発光色が黄色から緑色へと短波長シフトし,「圧し縮める力」を加えると発光色が黄色から橙色へと長波長シフトする材料の開発に成功した.

 

Highly Flexible π-Extended Cyclooctatetraenes: Cyclic Thiazole Tetramers with Head-to-Tail Connection
K. Mouri, S. Saito, S. Yamaguchi, Angew. Chem. Int. Ed., 51, 5971-5975 (2012).
[DOI: 10.1002/anie.201201265]

固体状態で優れた性質を示すπ共役分子は,光電子材料として広く用いられている.しかし,その多くはsp2炭素からなる剛直な骨格をもつことから,無機材料に似て,構造柔軟性に由来する物性の変換は難しく,静的な物性の発現に留まっている.これに対し,柔軟なπ共役骨格の動きは「可逆な動的変化」とみなすことができ,複数の状態を可逆に変換するための仕掛けとして興味深い.ただし,分子の形が変わったからといって材料の性質が必ずしも大きく変わるわけではない.性質が構造に連動して変化する系をつくるには何らかの工夫が必要である.

本研究では,その工夫として「芳香族性の変換」に着目し,材料特性の可逆変換機能を目指している.炭素の8角形でできたπ共役骨格(シクロオクタテトラエン)は柔軟に形を変えることができ.特に平面構造になると反芳香族性という特有の電子状態を発現し,分子の性質が大きく変化する.我々は,このπ共役8員環を中心に据え,形の柔軟性を損なわないようにπ共役系が全方向に拡張された分子骨格を開発した.この分子骨格は,溶液中において1秒間に数千万回の超高速反転を繰り返す,極めて柔軟な鞍型構造をしている.さらに,非平面の形であるにもかかわらず,固体状態では一列に積み重なって集合することがわかった.今後,この分子骨格の柔軟性を凝集状態で引き出すことにより,材料特性が変換できる高度な機能システムの創出を目指す.

Related Papers:

  1. K. Mouri, S. Saito, I. Hisaki, and S. Yamaguchi, Chem. Sci., 4, 4465-4469 (2013).
    [DOI: 10.1039/C3SC52232F]