THE YAMAGUCHI GROUP
名古屋大学大学院理学研究科  物質理学専攻化学系  機能有機化学研究室
 
 
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 トリアリールボランはホウ素の空のp軌道に由来した電子受容性を示す興味深い化合物群である。これらを有機エレクトロニクスにおける電子輸送材料として応用する際に、その一電子還元種であるラジカルアニオンに関する知見が重要となる。今回、我々はすでに報告している平面固定トリフェニルボランの化学還元を検討し、対応するラジカルアニオンの合成・単離に成功した。電子常磁性共鳴(EPR)スペクトル測定および理論計算の結果、トリフェニルボラン骨格を平面に固定することで不対電子スピン密度がπ骨格全体に効果的に非局在化することが明らかとなった。さらに、この構造固定されたラジカルアニオンは基底状態において最安定構造である平面構造とともにボウル型準安定構造をもつことが理論計算により示唆された。計算により見積もった両者のエネルギー差が非常に小さいことから、このラジカルアニオンは室温において平面構造とボウル構造との平衡にあると考えられる。実際、この化合物のX線結晶構造は浅いボウル構造であり、還元することで柔軟な分子構造変化を誘起できることを示した。