THE YAMAGUCHI GROUP
名古屋大学大学院理学研究科  物質理学専攻化学系  機能有機化学研究室
 
 
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 Friedel-Crafts反応の中間体として重要なアレニウムイオンに代表されるように、カルボカチオンなどの強いLewis酸とアレーン類との相互作用によるアレニウム錯体は、構造化学の観点だけでなく、その反応性などの性質においても興味深い化学種である。今回、当研究室ですでに報告している平面固定トリフェニルボランと炭素求核剤であるt-BuLiとの反応を検討したところ、構造固定された骨格であるにもかかわらずホウ素上での置換反応が進行し、一つのベンゼン環が脱離したボラシクロファンが得られることを見出した。この化合物は三配位ホウ素原子と脱離したベンゼン環が非常に近接した位置に固定された構造をもち、ホウ素−ベンゼン相互作用のモデル化合物であると言える。X線結晶構造解析および理論計算の結果、ホウ素とベンゼン環の近接した炭素原子との間に明確な結合性相互作用があることを見出し、さらに、ベンゼン環に電子供与性置換基であるジメチルアミノ基を導入することで、このホウ素−ベンゼン相互作用の性質をpi錯体からsigma錯体性の高い構造に変化させることにも成功した。 これらの結果は、Lewis酸である三配位ホウ素化合物によるベンゼン誘導体の活性化における中間体を”一時停止”した構造であると見なすこともでき、典型元素化合物の配位化学に重要な知見を与えるものである。