THE YAMAGUCHI GROUP
名古屋大学大学院理学研究科  物質理学専攻化学系  機能有機化学研究室
 
 
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 ペックマン色素は、交差共役したラクトンを部分構造にもつ古典的な有機色素の一種であり、その長波長吸収特性や高い電子受容性に起因して有機エレクトロニクス材料の基本骨格としての潜在性をもつことから、近年にわかに注目を集めている。今回我々は、ペックマン色素のラクトン部位をチオラクトンに置き換えることで、硫黄の電子効果によりさらなる電子構造修飾が可能となると考え、その合成および物性について検討した。クォーターチオフェンを鍵中間体として用いた合成により、硫黄版ペックマン色素(S-ペックマン色素)の合成に成功した。得られたS-ペックマン色素は多段階の酸化還元特性を示し、特にその還元電位は電子受容性π電子系の代表格であるフラーレンC60に匹敵することがわかった。S-ペックマン色素の LUMO はラクトン構造をもつペックマン色素より低く、理論計算により硫黄のサイズ効果が重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、得られたS-ペックマン色素は、溶液状態では青色を呈するのに対し、結晶状態では金属光沢をもつ黒色であり、X線結晶構造解析および固体状態での吸収特性、理論計算の結果より、密なπスタック構造に起因して強い分子間相互作用を発現していることが明らかとなった。以上は、S-ペックマン色素の新たな電子受容性π共役系の基本骨格としての潜在性を示す結果である。


Chem. Commun. 誌 2013年 64巻(8月18日号)の裏表紙に掲載されました!>> LINK