THE YAMAGUCHI GROUP
名古屋大学大学院理学研究科  物質理学専攻化学系  機能有機化学研究室
 
 
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 三配位ホウ素を有するπ共役化合物は、ホウ素の空のp軌道を介した共役に由来した興味深い光物性を示す。今回我々は、平面に固定したトリフェニルボランが、構造固定された骨格であるにもかかわらず特異な二重蛍光特性をもつことに着目し、その励起状態ダイナミクスの解明に取り組んだ。時間分解分光測定および励起状態の理論計算の結果、この化合物は最低励起一重項状態において、平面構造と大きく構造変化したボウル型構造の二つの安定構造をとり、各々から異なる波長で蛍光を示すことにより二重蛍光特性を発現することを明らかにした。トリフェニルボラン骨格まわりの三つのメチレン基による架橋は、分子構造を平面に固定するだけでなく、ホウ素-炭素結合長を短くし、ホウ素まわりの構造を規制している。光励起により電子状態が変化することで、この構造規制を解消し、平面構造からボウル構造へと大きく構造変化すると考えられる。この結果は、メチレン架橋によって固定された基底状態の構造が、励起状態において大きな構造変化を誘起する仕掛けとなり得ることを示しており、平面固定によって分子構造を剛直にするという一般的な発想とは全く逆に、動的挙動を引き出すという興味深い分子設計指針を示唆している。