THE YAMAGUCHI GROUP
名古屋大学大学院理学研究科  物質理学専攻化学系  機能有機化学研究室
 
 
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 特異なボロール骨格を安定な材料として使うにはどうすればよいか.その一般的な方針は,立体的にかさ高い置換基をホウ素に導入し,速度論的に安定化し,かつ,ボロール環に芳香環を縮環させ,ボロールの反芳香族性を減少させることである.実際,これまでにホウ素にかさ高いアリール基をもついくつかの安定なジベンゾボロール誘導体が合成され,電子輸送性材料としての可能性や,アニオンセンサーへの応用が報告されている.しかし,縮環構造をもたせることにより安定化できるのは,芳香族性の高いベンゼンだけであり,ヘテロ環であるチオフェンやピロールを縮環させた場合には安定化には働かず,むしろ反芳香族性が増大し,より不安定になることが最近明らかになった.例えば,チオフェン縮環ボロールは何れも酸素,水に対して不安定であり,不活性雰囲気下で取り扱う必要があった.このことは,ホウ素上にTip基を導入したジベンゾボロール誘導体が空気中でシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製できるのと対照的である.これはヘテロ環を縮環した場合には,ボロール環のブタジエン骨格における結合交替が小さくなり,ボロールの4π電子系としての反芳香族性が増大することに起因する.この高い反芳香族性を反映して,ヘテロ環縮環ボロールはベンゼン縮環ボロールや他のヘテロール類縁体とは大きく異なる物性を示す.例えば,チオフェン縮環ボロールのCH2Cl2中での吸収極大は600 nmであり,これは,ホウ素の代わりに他のヘテロ元素を導入しても全く実現できない値である.反芳香族性をもつユニークなπ電子系として位置づけられる.